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Channel: 変声珍語
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気まぐれスティーブの憂欝第5話

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早秋の冷たいが時々凜と吹き付ける早朝、俺達はメキシコのとある池にスティーブと
釣りに来ていた。


「なんか久しぶりだな、こうやってカン・ウーと釣りするのってよ」


「あぁ、そうだな。いつもお前に振り回されて人生台無しになる寸前になるような事ばかり起きて、最近は全然釣り小説じゃなくなってきてるからこうやって釣りに来て
るのさ」


「ヘイ!カン・ウー!まるで俺がスゲー悪人みたいじゃねぇかよ!つうか小説ってなんだよ!」


「フフフ…まぁそう怒るなよ。おっと、フィッシュオン!」


「未だにそれ言うヤツ居るのかよ!」


「よしよし暴れるなよ…OK!great!どうだスティーブ、62・4㎝はあるだろ!」


「どんだけ刻んでんだよ!」


「おいおい、一体どうしたんだいスティーブ…セリフがツッコミだらけになってるぜ?さては昨日遅くまでペリーモコ・ショーでも見てたな?」


「自分が言わせてんじゃね~かよ!あ、俺にもキタ!」


「ほう、なかなか凄い引きだな…でも多分ナマズだ」


「決めつけんなよ~…お、寄って来たな………ジーザス!………ナマズだ」


「フハハハ!まぁそう落ち込むなよ。腹が減っては戦はデニムって事さ。ヘイ!そろそろ朝飯にしようぜスティーブ!」


俺は向こう岸で鮒を釣っているマッコイじいさんに合図を送り少し遅い朝食をとる事にした。










「しかしスゲーよな、バス釣りに来るのにお抱えシェフ付きで朝からフランス料理なんてさ…ヘイ、カン・ウー!全くお前はちょっとイカレてるぜ(笑)!」


「フフフ…Jr.ハイスクールの頃は毎日ランチがトリュフとキャビアとマツザカ・ビーフばかりだったな…あの頃は貧乏だった…」


「おま…ちょっとどころかかなりイカレてるぜ!」


「あたしゃいつもパエリアにロブスターの活き作りの弁当でしたぜ旦那!」


「黙れ嘘つきジジイ!」

「やはり朝から食べるフォアグラは美味いな…そうだ、ヘイ、スティーブ!朝食を食べ終わったらそこの林に山芋を掘りに行かないか?」


「何でいきなり山芋なんだよ!さっきのキャビアがどうだとか言ってた話は何なんだよ!」


「あたしゃやっぱり山芋ステーキが好きですぜ旦那!」


「シャラ~ップ!ゲラウェイヒア!!」


「ふぅ~…美味かった。ヘイ、スティーブ!そろそろ山芋ハントへ行こうじゃないか」


「何が山芋ハントだよ!まぁいいや・・・じゃあとっとと行こうぜ!」











「ヘイ!!スティーブ!!どうだいここにもデカイのがあるぜ!!」


「カン・ウー!全くお前は釣りだけじゃなくて山芋を見つけるのも天才じゃねぇか!全く大したもんだぜ!」


「今日はトロロ飯に山芋ステーキに・・・スティーブさっさとカミさんに電話して晩飯の準備にストップをかけたほうがいいんじゃないか?さもないとまた、ポークビーンズにベイクドポテトがテーブルからお前さんにウインクするぜ」


「ハハハ!そいつはいけねぇな!ちょっと電話しとくか・・・ヘイ!ジェニーかい?晩飯の買い出しはもう行ったかい?何?今夜はポークビーンズにベイクドポテトにしようかと思ってたって?おいおい先月からそればかりじゃないか・・・いや、それは別にいいんだが今日は俺が料理を作ろうかと思ってさ・・・なぁにたった今タダで最高の食材を手に入れたのさ!そうそう、子供達もきっと喜ぶだろうな!じゃあ首を長ーくして待ってなよハニー!!」







スティーブは袋に溢れんばかりの山芋を詰め込むと一足先に家へと帰って行った。残った山芋をヘリに乗せている時、マッコイ爺さんが鮒釣りから帰ってきた。


「旦那!今日は一匹しか釣れませんでしたぜ!・・・・おや、旦那こりゃまた沢山獲れたもんでさぁね」!


「あぁ、今日は爺さんにもとびっきり美味い山芋スティックを食わせてやるから楽しみにしてくれよ」


「そいつぁ嬉しいですぜ旦那!・・・・・・しかしこりゃあ・・・・・」


「どうしたマッコイ爺さん?ははぁ~・・・さてはテリーのとこのリンダ婆さんへのおすそ分けが欲しいんだな?」 


「いやいや・・・・そいつはいいんですが・・・・旦那!一言言っていいですかい?」


「何だ?言ってくれ」


「旦那・・・・・・・・・それ、牛蒡(ゴボウ)じゃないですかい?」


「・・・・・何だって?」


「牛蒡ですぜそれ」


「・・・・・牛蒡?」


「キンピラとかに使う牛蒡ですぜそれ」







 俺は天を仰いだ。心地よい疲労感と共に流れ出す額の汗をシャネルの手拭いで払うと、赤く色付き始めた西の空を眺めながら俺は、家族の呆然とした視線を浴びながら、豆だらけになった手でひたすら牛蒡をすりこぎで摺り続けるスティーブの姿を想像し、少しだけ幸せな気分になったのであった。
























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